目次
キャリアサマリー
1989年
友人の誘いで、ベトナム・ホーチミン市の日本食レストランで働き始める。以降、ベトナムのホーチミンやハノイ、マレーシアのクアラルンプールなどの日本食レストランや一流ホテルで数々の経験を積み、すしと日本料理の腕、そして店舗マネジメント能力を磨く。
2009年
「鮨人」を開業し、現在に至る。
ベトナム・ホーチミン市の超一等地にある「鮨人」は連日、多くのベトナム人、そしてベトナムに駐在する日本人でにぎわう「すしと日本料理の名店」だ。オーナー兼すし職人のチョン・チ・ニャンさんは多くの日本食レストランやホテルで磨いてきた腕を振るい、オリジナリティあふれるすしと日本料理を提供している。
私はベトナムで一流の日本食レストランやホテルで腕を磨いた後、2009年に「鮨人」を立ち上げました。そのときに大切にしたのは、できるかぎり幅広い料理を提供することで、ひとりでも多くの日本人やベトナム人に楽しんでもらおうということです。私が鮨人を開業した当時は、日本料理はほんの一部の富裕層しか食べることができない高級料理だったので、できるだけリーズナブルに多様な料理を提供することで日本料理の素晴らしさを広めたいと思ったのです。そこで、当店では今もすしに限らず、天ぷらや煮物、揚げ物、ご飯もの、麺類など、幅広いジャンルの日本料理を提供しています。
また、当時のベトナムでは「日本料理といえばすし」というイメージが強かったので、店名には「鮨」の字を冠しました。と同時に、ベトナム語で「Nhan Sushi(ニャンスシ)」という読み方も併記しているのですが、そこにはベトナム人にもおいしいすしが握れるんだという思いを込めました。最近はベトナム人の所得水準が上がり、これまで以上に多くのお客さまに来ていただけるようになり、さらにやりがいを感じています。
すし職人としてのモットー
こだわっているのはすしや日本料理の伝統を大切にしながら、地域の特性や自身のオリジナリティを出すことです。たとえば、今は日本から比較的簡単にすしネタや調味料を仕入れることができますが、タコやエビなどベトナム産でもおいしいものは鮮度を優先して積極的に使うようにしています。また、一部の調味料についてもベトナムにあるものをアレンジすることで、日本の味付けとはひと味違った個性を出すようにしています。
もちろん、お客さまとのコミュニケーションも重要なポイントのひとつです。当店では会話などを通してお客さまの好みや希望を把握し、できるだけそれに沿ったすしや料理を提供していますし、タイミングについてもつねにお客さまのペースを意識しています。ベトナムでもこうした対面接客による心配りや目配りは好意的に受け入れられているので、これからも大切にしつづけたいと思います。
すし・料理へのこだわり
私は1989年に高校を卒業したのですが、当時は大学に進学するか、就職するかで迷っていました。そのときにたまたま友だちからベトナム・ホーチミン市の有名な日本食レストランで働かないかと誘われて、試しにやってみることにしたのです。
とはいえ、私はそれまでに日本とは何の接点もありませんでしたし、当然、すしや日本料理のことも知りませんでした。働きはじめた日本食レストランには3人の日本人料理人がいましたが、正直、日本料理に関する第一印象は「シンプルすぎるのではないか」というものでした。特に刺身や冷奴などはきれいに盛り付けただけなのに、こんなに高価なのかと驚いたものです。
ただ、その思いは経験を積むにつれて変化していきました。特にホーチミン5区のホテルで働いたときには4人の日本人料理人が丁寧に日本料理について教えてくれたので、日本料理における素材の味を引き出すための技術や工夫に感激し、その奥深さにのめり込むようになっていきました。そして、自分も日本料理のプロフェッショナルとして生きていきたいと思うようになったのです。