目次
キャリアサマリー
1990年
高校を中退し、東京・品川のすし屋で働きはじめる。
1998年
前職の先輩が東京・飯田橋ですし屋を開業したのを機に同店に転職。
2010年
数店舗で腕を振るった後に「築地寿司清」に転職し、東京・池袋の「築地寿司清 すし魚寿」の立ち上げに尽力。以後、10年にわたって同店に勤務。
2020年
東京・本郷三丁目にて「鮓 伊保」を開業
樋口一葉や宮沢賢治など、名だたる文人たちが暮らした菊坂(東京・本郷三丁目)。「鮓 伊保」は風情あるこの坂の途中に、2020年に開業した新興のすし屋だ。店主の伊保聡さんは磨き上げた腕と感覚で旬の魚介に向き合い、絶品の江戸前ずしを手掛けている。もちろん、その味とホスピタリティは多くのお客を惹きつけ、今ではすっかり近隣住民に愛されるすし屋になっている。伊保さんの歩みとこの店にかける熱い思いを紹介したい。
うまい江戸前ずしと酒を楽しんでもらえる場を提供することが何よりの信条であり、それを実現するためにすしや料理にこだわりつづけています。また、お客さん一人ひとりの好みに寄り添うことも大切にしており、予約時にはリクエストを伺い、その日の仕入れや仕込み、調理に生かすようにしています。
また、当店はコロナ禍の2020年に開業したのですが、店舗物件にもとことんこだわりました。ひとりでも効率的にまわすことができ、かつお客さまがリラックスしてすごせるような雰囲気の物件を求めて、20~30軒くらい見て回った結果、最終的にこの菊坂の物件にたどり着き、即座に決断しました。席数は6席とコンパクトですが、お客さま一人ひとりとゆっくり向き合える設えになっていますので、ぜひご来店いただきたいと思います。
すし職人としてのモットー
旬の食材を生かした江戸前ずしを軸にした料理を提供していますが、そこには自分なりの工夫を随所に凝らすようにしています。たとえばシャリに使う酢に関しては、赤酢を中心にしながらもいくつかの酢をブレンドすることで、江戸前の伝統を感じてもらいながらも食べやすい風味に仕上げました。
もちろん、ネタにもこだわりがあります。私は10代の頃から毎日のように築地市場に出入りしていたので、仲卸とも阿吽の呼吸でほしい魚介をあてがってもらうことができます。仕入れはなんといっても人間関係がものをいう分野ですから、長年にわたって仕入れに携わってきたことが大きな財産になるのです。
すしに関しては、個人的にはコハダやシンコ、サバなどの酢じめのネタが好みで、調理にも自信があります。酢じめは実に奥深く、扱う魚介のサイズや脂ののり具合などに応じて、どのくらいしめるか、どのくらいの塩加減にするかといったことを見極めなければなりませんし、その日の気温や湿度なども加味しなければなりません。このあたりの絶妙なさじ加減は毎日、食材と真剣に向き合ながら仕込みを手掛けてきたからこそ得られる感覚だと思います。
ときにはちょっとした変わり種に挑戦してみることもあります。最近だと殻付きのアオヤギが目についたので仕入れてみたのですが、やはり鮮度が素晴らしく、お客さんにもとても喜んでいただけました。このようにあらたな出会いがあるので、市場通いはやめられませんね。
すし・料理へのこだわり
高校生のときに根っからの勉強嫌いだったこともあって、早々に料理人になろうと思ったのがきっかけです。結果的に高校を中退して料理人の道を歩みはじめたのですが、両親は高校を中退することに猛反対。なかば勘当のような感じで家を飛び出したときに、運よく寮付きのすし屋の求人を見つけ、それから5年ほど東京・品川にあるその店で働かせてもらいました。この出会いがなければ私がすし職人の道を歩むこともなかったので、本当に人生は何があるかわからないし、巡りあわせが大切だなと思います。ちなみに、それ以降はその店の先輩が立ち上げた店で4年、そしていくつかの店で働いた後に、東京・池袋の「築地寿司清 すし魚寿」に移り、そこで10年ほど勤務した後に「鮓 伊保」を開業しました。